顧客は「自分が欲しいもの」を分かっていない
社長ブログ

目次
だからこそ、プロは迎合してはいけない
私は以前から、こう考えてきました。
顧客は、自分が欲しい商品を分かっていない
それは当たり前だし、責める話ではない
問題は、その「当たり前」をプロである側が忘れてしまうことです。
雨漏りは「塗装」で直る?
現場で本当にあった話
少し前、地元の戸建て住宅オーナーさんから「屋根から雨漏りしている」という相談がありました。
築20年ほど。決して珍しくないケースです。
すでに他社にも見積もりを取っていて、
その業者の提案はこうでした。
•雨漏り箇所にシーリングを充填
•その上で屋根塗装
一見、安く・早く・分かりやすい。
お客様にとっては魅力的に見えます。
勾配屋根にシーリングは“タブー”
しかし、当社の見解は真逆です。
勾配屋根にシーリングを使うのは、絶対NG。
理由は単純で、
•勾配屋根は「水を逃がす構造」
•シーリングは「水を止める材料」
👉 雨仕舞いの思想が真逆なんです。
一時的に止まったように見えても、
•水の流れを変える
•逃げ場を失った水が別の弱点へ回る
•結果、被害が拡大する
これは理屈の話であって、経験論でもあります。
当社の提案は「屋根カバー工法」
そこで当社は、屋根カバー工法による根本対策を提案しました。
当然、金額は高くなります。
するとお客様から、こう言われました。
「できれば御社にお願いしたい」
「でも、シーリング+塗装で安くできませんか?」
ここ、正直に言って心は揺れます。
でも、答えは一つでした。
「できない仕事」は、断る
当社はお断りしました。
理由はシンプルです。
所定の品質が確保できないから
一度お金をいただいて、
•直らない
•数年で再発する
•かえって被害を広げる
それは、仕事じゃなくて作業です。それ自体、価値を生みません。
だから断りました。
数ヶ月後、一本の電話
数ヶ月後、そのお客様から電話がありました。
「雨漏りが止まらない」
「しかも、今まで漏れていなかった別の場所からも…」
正直、「やっぱりな」という気持ちと、悔しさが同時にありました。
でも、もう当社にできることはありません。
シーリングで雨仕舞いを壊された屋根は、部分対応では救えない状態になっていたからです。
これは“顧客の判断ミス”ではない
ここ、すごく大事なところです。
この件は、
•顧客が悪いわけでも
•安さを選んだからでもない
分からなかっただけなんです。
•雨漏りの原因
•屋根構造
•工法の良し悪し
分かる方が特殊です。
問題は「商品で会話してしまう業界構造」
•塗装屋は「塗装で直る」と言う
•防水屋は「防水が原因」と言う
•屋根屋は「屋根だ」と言う
全員、自分の商材の言葉で説明する。
でも顧客が欲しいのは、
•塗装でも
•シーリングでも
•カバー工法でもない
👉 「もう雨漏りに悩まされない暮らし」
それだけです。
間口を広く持つ理由は、ここにある
だから私は、間口は広く持つべきだと思っています。
•「それはうちの専門じゃない」で切らない
•建物全体を見る
•構造と雨仕舞いを説明する
•合わない工事は、断る
これは何でも屋ではありません。
👉 翻訳者であり、診断者であるという立場
トヨタと建設業は同じ構造にいる
トヨタは言いました。
「EVは選択肢の一つ」
社会が「EVが欲しい」と言っても、
「顧客が本当に欲しいのは何か?」を問い続けた。
•環境
•コスト
•インフラ
•世界の現実
建設業も同じです。
顧客の言葉を、そのまま工事に変換してはいけない。
最後に
この雨漏り被害は、本当なら防げたはずでした。
だからこそ、私は思います。
顧客に迎合しないことは、顧客を守ることでもある
専門特化は武器。
でも入口ではない。
間口は広く判断は厳しく責任は逃げない
この姿勢を貫ける会社が、最後に信頼される。
そう信じて、私たちは今日も「断る勇気」を持って現場に立っています。